ヘルパー業務のDX、どこから手をつける? 訪問介護事業所が今すぐ始められるICT活用のステップと事例

「DXやICTが大事なのはわかっている。でも、何から始めればいいの?」——訪問介護の現場で、そう感じているヘルパーさんやサービス提供責任者(サ責)の方は少なくないはずです。この記事では、業務改善の糸口の見つけ方から、厚生労働省が紹介する具体的な導入事例まで、丁寧に解説します。

目次

1. 訪問介護の「隠れたムダ」に気づいていますか?

訪問介護の現場で毎日起きている、ある典型的な場面を想像してみてください。

ヘルパーのAさんが利用者宅を訪問中、想定外のことが起きました。急いでサ責に報告しようと電話をかけますが、サ責も別の訪問先で対応中のため折り返しを待つことに。ようやく電話が繋がったときには、次の訪問先への移動時間が迫っていました。利用者情報の共有はあいまいなまま、Aさんは次の現場へ——。モヤモヤが募りますよね。

このような「電話がつながらない」「情報が正確に伝わらない」「紙の記録を事務所に戻って提出しなければならない」という状況は、訪問介護の現場では日常茶飯事です。そして、それらは積み重なって、ヘルパーの疲弊と離職につながっています。

厚生労働省が作成した「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き(令和3年度改訂版)」は、訪問介護における業務課題として「記録の紙管理による転記の手間」「事業所との情報共有のタイムラグ」「介護報酬請求業務の煩雑さ」などを明示したうえで、ICTを活用することでこれらを大幅に改善できると示しています

2.なぜ今、訪問介護のDX・ICTが必要なのか

介護業界が直面している人材不足は年々深刻さを増しています。厚生労働省の推計によれば、2040年度には約280万人の介護職員が必要とされる一方、現状のままでは大幅な不足が避けられない見通しです。また、2024年度の介護報酬改定では訪問介護の基本報酬がマイナス改定となり、多くの事業所が経営面での圧力を受けています。

こうした背景から、「人を増やす」だけでは立ち行かない時代に入っています。一人ひとりのヘルパーが同じ時間でより多くの利用者に質の高いサービスを提供できる環境を整えること——つまり生産性向上が、今や事業所の存続に直結するテーマです。

令和6年度の介護報酬改定では、介護ロボットやICT機器を継続的に活用し、生産性向上ガイドラインに基づいた業務改善を行う事業所を評価する新たな加算が設けられました。ICTの導入は「やれたらいい話」ではなく、加算にも直結する経営戦略の一部なのです。

3.まず現状を把握しよう

DXやICT導入で多くの事業所がつまずくのは、「便利そうなツールを先に選んでしまう」からです。正しい順序は逆です。まず現場の課題を整理し、解決したい問題を明確にしてから、ツールを選ぶ——この順番が成否を分けます。

厚生労働省の手引きでも、導入プロセスの最初のステップとして「業務課題の洗い出しと導入計画の作成」を掲げています。以下の7ステップが推奨されています。

特に注目したいのがステップ1です。「どの業務で困っているか」をチームで共有することが、その後の選択をすべて決めます。ヘルパーさん自身が日々感じている「ここが大変」「ここが非効率」という感覚は、業務改善の出発点として非常に価値があります。

4.訪問介護で「効果が出やすい」ICT活用の3領域

① サ責とヘルパーのリアルタイム連絡・情報共有

直行直帰が基本のヘルパーと、外出が多いサ責が情報をリアルタイムでやり取りすることは、従来の電話では限界があります。スマートフォンとビジネスチャットツールを組み合わせることで、複数名が同時に情報を確認・共有できる環境が整います。緊急時の連絡も文字として記録が残るため、口頭連絡にありがちな「言った・言わない」も防げます。

② 訪問記録のデジタル化・ペーパーレス化

手書きの訪問記録をスマートフォンやタブレットで直接入力しクラウドに保存する仕組みは、「事務所に戻って記録を提出する」という移動コストをゼロにします。転記ミスもなくなり、記録の正確性も向上します。タブレット端末などを使った直接入力により、転記作業という「2度手間」が解消されます。

③ シフト管理・介護報酬請求の効率化

シフト作成や介護報酬請求に特化したソフトを導入することで、月初に集中していた膨大な事務作業を大幅に削減できます。ある事業所では導入後に請求業務の残業がほぼゼロになり、完了日数が10日以上から5日程度へと半減したという報告もあります。

事例① サ責とペルパーの連絡がリアルタイムでできるようになった

事例②:紙の記録をデジタル化

5.始めにすること

①「一番困っていること」を一つ決める。
記録が大変なのか、連絡がうまくいかないのか、請求業務が重いのか——課題を絞ることが最初の一歩です。全部を一度に解決しようとしないことがポイントです。

②現場のヘルパーさんの声を集める。
「どこが大変?」という問いへの答えが、改善の宝庫です。アンケートや短い面談で現場の実態を把握しましょう。トップダウンで決めるより、現場発の課題を起点にした方が定着しやすいことは、導入事例に共通しています。
 
③補助金を確認する。
都道府県の介護テクノロジー導入支援事業では、費用の一部(3/4または4/5)が補助される場合があります。令和7年度にはすでに全47都道府県でこの事業が実施されています。まずお住まいの都道府県か、介護生産性向上総合相談センターに制度をご確認ください。

ICT導入は「完璧な計画ができてから」ではなく、「小さく始めて、改善しながら育てる」姿勢が大切です。電話連絡をチャットに変えるだけでも、現場は大きく変わります。最初の小さな一歩が、事業所全体の働き方を変えていきます。

6. 自事業所の課題を「診断」してみよう

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「よし!始めよう——でも、自分の事業所の何が問題かがまだはっきりしない」

そんな方のために、DX医療介護ナビでは「生産性向上のための診断アンケート(訪問介護版)」(PDF)を無料でご提供しています。ヘルパーさんやサ責の方にご回答いただくことで、自事業所のどの領域に改善の余地があるかが一目でわかる診断ツールです。

診断項目は以下の8領域・全40問(5段階評価)+時間記録・自由記述で構成されています。

【診断アンケートの構成】

  1. 職場環境の整備
  2. 業務の明確化と役割分担(業務の流れ)
  3. 業務の明確化と役割分担(テクノロジー活用)
  4. 手順書の作成
  5. 記録・報告様式の工夫
  6. 情報共有の工夫
  7. OJTの仕組みづくり
  8. 理念・行動指針の徹底

さらに「1日あたりの業務時間の内訳」記入欄と「最も改善が必要な項目の選択」「自由記述欄」も設けています。

たとえば「ICT機器が整備されているか」「モバイル端末だけで訪問業務が完結できるか」「サ責からの指示がタイムリーに伝わっているか」など、訪問介護の現場で本当に効いている問いが並んでいます。チームで回答・集計するだけで、どの領域から手をつけるべきかが見えてくる診断ツールです。

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