目次
本マニュアルは、令和6年度介護報酬改定において注目されている「生産性向上推進体制加算」について、算定要件の確認から実際の申請手続き、そして算定開始後の運用管理までを網羅した実務担当者向けガイドです。
1.どっちを申請する?(算定要件の比較と選び方)
まずは自施設が「加算(II)」と「加算(I)」のどちらを狙えるかを確認しましょう。基本戦略としては、ハードルの低い(II)から開始し、実績を作ってから(I)へ移行するのが最もスムーズで確実です。
1.1加算区分による比較表
※単位数は施設系サービス(特養等)の例です。事業所タイプにより異なる場合があります。
項目 | 加算(II):まずはここから! | 加算(I):フル装備で増収! |
収益目安 | 10単位/月(1人あたり) ※少額だが導入の第一歩 | 100単位/月(1人あたり) ※大幅な増収が見込める |
テクノロジー 機器の要件 | 下記のいずれか1つ以上を導入: ①見守りセンサー ②インカム等(ICT) ③介護記録ソフト | 下記の3つすべてを導入・運用: ①見守りセンサー(全居室設置) ②インカム等(全職員使用) ③介護記録ソフト(全職員使用) |
機器の設置 ・使用率 | 緩やか ・見守り:全床設置でなくてもOK ・データ連携:必須ではない | 厳格(原則100%) ・見守り:全居室に設置 ・インカム等:同時刻勤務の全職員が使用 ・記録ソフト:全ケア職員が使用 |
必須活動 | ・委員会の開催(3ヶ月に1回以上) ・必要な安全対策の実施 ・年1回の厚生労働省へのデータ報告 | ・加算(II)の全要件を満たすこと ・データ連携(見守り機器と記録ソフト等) ・業務改善の成果報告(データ提出) |
実績期間 | 特になし(届出月から算定可) | 3ヶ月以上の試行運用の実績が必要 |
ここがポイント!
いきなり「加算(I)」を狙うと、機器の全台導入コストや職員へのオペレーション教育が追いつかず、現場が混乱するリスクがあります。まずは既存の設備で申請可能な「加算(II)」を取得し、委員会活動を通じて「生産性向上」の土壌を作ることが成功の鍵です。
2. 申請に必要な書類と入手場所
申請に必要な書類は、提出先である「自治体」の様式と、国の指定する「標準様式」の2種類を組み合わせる必要があります。
2.1 書類一覧とチェックリスト
① 介護給付費算定に係る体制等届出書
書類の内容
申請の「表紙」として機能する基本書類です。以下の情報を記載します。
- 事業所番号、事業所名称、所在地、電話番号
- サービス種類(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設等)
- 算定を開始する年月日(例:令和7年4月1日)
- 届出日と届出者氏名(管理者または法人代表者)
- 届出事項の区分(新規、変更、廃止のチェック)
記入時の注意点
- 【重要】算定開始日は「月の初日」のみ可能です(例:4月1日、5月1日)。月の途中からの算定はできません。
- 事業所番号は必ず介護保険証に記載されている10桁の番号を正確に記入してください(誤記入が最も多いミス)。
- 届出者氏名欄には、管理者の氏名と押印(または電子署名)が必要です。
- 複数の加算を同時に届け出る場合、1枚の届出書にまとめて記載可能です。
入手先
各自治体(都道府県・市町村)のWebサイト(三重県のページはこちら)
※「〇〇県 介護保険 加算届出」等で検索すると様式ダウンロードページが見つかります。
よくあるミス
算定開始日を「届出日」と同じ日付にしてしまうケース。正しくは「算定を開始したい月の初日」を記入します。また、届出の締め切り(通常は前月15日)を過ぎてしまうと、希望する月からの算定ができなくなるため注意が必要です。
② 体制等状況一覧表(付表)
書類の内容
事業所が算定している(または算定予定の)すべての加算・体制をチェック形式で申告する一覧表です。生産性向上推進体制加算は、この一覧表の中に項目があります。
- 加算名の一覧(個別機能訓練加算、口腔衛生管理体制加算、栄養マネジメント加算など)
- 「生産性向上推進体制加算(I)」「生産性向上推進体制加算(II)」の選択欄
- 各加算の算定開始年月日
- 備考欄(必要に応じて特記事項を記入)
記入時の注意点
- 生産性向上推進体制加算の欄を見落とさないようにしてください。一覧表は通常2~3ページにわたるため、すべてのページを確認する必要があります。
- 加算(I)と加算(II)は同時に算定できません。どちらか一方のみにチェックを入れてください。
- 既に算定している他の加算についても、現状を正確に記入してください(生産性向上加算だけを記入するのではなく、全体を更新する形になります)。
- 自治体によっては、この一覧表がExcel形式で提供され、自動計算機能がついている場合があります。
入手先
各自治体(都道府県・市町村)のWebサイト
※通常は「①介護給付費算定に係る体制等届出書」とセットで提供されています。
③ 生産性向上推進体制加算に関する届出書(別紙様式)
書類の内容
生産性向上推進体制加算の算定要件を満たしていることを具体的に証明するための詳細書類です。以下の項目を記入します。
- 導入している機器の種類:見守りセンサー、インカム・ICT機器、介護記録ソフトウェアのそれぞれについて、製品名、メーカー名、導入台数・ライセンス数を記載
- 設置・使用状況:
- 見守りセンサー:設置居室数/全居室数(例:50室/50室=100%)
- インカム等:同時刻勤務職員数に対する使用可能台数
- 記録ソフト:全ケア職員数とソフトウェアを使用する職員数
- 委員会の設置状況:委員会の名称、開催頻度(3ヶ月に1回以上)、構成メンバーの職種
- データ連携状況(加算(I)の場合):見守り機器と記録ソフトウェアが連携しているかどうか、連携方法の説明
- 試行期間の実績(加算(I)の場合):3ヶ月以上の試行運用を行った期間(開始日と終了日)
記入時の注意点
- 【最重要】機器の導入台数や設置率は「概算」や「予定」ではなく、届出時点での「実数」を記入してください。虚偽記載は不正請求とみなされます。
- 製品名は正式名称で記入してください(例:「見守りセンサー A社製 ○○システム Ver.2.0」)。
- 加算(I)を申請する場合、3つの機器すべてについて、原則100%の設置・使用を証明する必要があります。やむを得ない理由(改修中の居室など)がある場合は備考欄に必ず記載してください。
- 委員会の構成メンバーには、管理者だけでなく、現場の介護職員、看護職員、生活相談員など多職種を含めることが推奨されます。
- データ連携の説明では、「見守りセンサーが検知した情報が記録ソフトに自動で記録される」などの具体的な連携内容を記載してください。
入手先
厚生労働省の「介護現場の生産性向上」特設サイト、または各自治体のWebサイト
※国が定める標準様式ですが、自治体によって若干のカスタマイズがある場合があります。必ず管轄自治体の様式を使用してください。
注意:データ連携の証明
加算(I)では「見守り機器と記録ソフト等のデータ連携」が要件となっています。単に「両方とも導入している」だけでは不十分です。システムベンダーから「連携機能の説明書」や「連携設定の画面キャプチャ」を入手し、添付資料として準備しておくことを強く推奨します。
④ 機器導入の証拠書類
書類の内容
「③の届出書に記載した機器を実際に導入している」ことを客観的に証明する添付資料です。以下のような書類を準備します。
- 契約書・発注書:機器の購入またはリース契約を結んだことを示す書類
- 納品書・請求書:機器が実際に納品され、支払いが発生していることを示す書類
- 製品カタログ・仕様書:導入した機器がどのような製品かを示す公式資料(メーカー提供のもの)
- 設置状況がわかる写真:
- 見守りセンサー:居室内に設置されている様子(ベッドとセンサーが同一フレームに収まる写真が理想)
- インカム:職員が使用している様子、充電器・保管場所の写真
- 記録ソフト:タブレットやPCの画面に記録ソフトが表示されている様子
- 配置図・設置図面:どの居室にどの機器が設置されているかを示すフロアマップ(手書きでも可)
- ライセンス証明書:記録ソフトウェアの場合、使用権を証明するライセンス契約書やIDの発行通知
準備時の注意点
- 写真は鮮明なものを使用してください。日付が写り込んでいると、導入時期の証明にもなります(スマートフォンの日付表示機能を活用)。
- 個人情報保護の観点から、利用者の顔や名前が写り込まないように注意してください。
- 複数の居室に同じ機器を設置している場合、すべての居室を撮影する必要はありませんが、「全居室に設置されている」ことが分かる証拠(配置図と代表的な居室の写真の組み合わせ)を準備してください。
- リース契約の場合、リース期間が算定期間をカバーしているか確認してください。契約期間が短く、更新を忘れると要件を満たさなくなります。
- 【重要】証拠書類はPDF化し、ファイル名を分かりやすくつけてください(例:「04-1_見守りセンサー契約書.pdf」「04-2_見守りセンサー設置写真.pdf」)。
準備方法
自社で用意(ベンダーや施工業者に協力を依頼)
※契約時に「行政への届出に使用するため、正式な納品書と製品仕様書を発行してください」と依頼しておくとスムーズです。
推奨:証拠書類チェックリスト
- 見守りセンサーの契約書または請求書(□ PDF化済み)
- 見守りセンサーの製品カタログ(□ PDF化済み)
- 見守りセンサーの設置写真(最低3~5枚)(□ PDF化済み)
- インカム等の契約書または請求書(□ PDF化済み)
- インカムの製品カタログ(□ PDF化済み)
- インカムの使用状況写真(□ PDF化済み)
- 記録ソフトの契約書またはライセンス証明(□ PDF化済み)
- 記録ソフトの製品資料(□ PDF化済み)
- 記録ソフトの画面キャプチャ(□ PDF化済み)
- 機器配置図(フロアマップ)(□ PDF化済み)
すべてにチェックが入ったら、申請準備完了です!
⑤ 成果確認のデータ(※加算(I)のみ)
書類の内容
加算(I)を申請する場合、「機器を導入したことで業務が効率化され、かつケアの質が維持・向上している」ことをデータで示す必要があります。具体的には以下のようなデータを準備します。
- 業務時間の削減データ:
- 機器導入前と導入後の職員1人あたりの平均残業時間
- 夜勤帯の巡視回数の変化(見守りセンサー導入の効果)
- 記録業務にかかる時間の変化(例:手書き記録30分→タブレット記録15分)
- 職員アンケート結果(「業務負担が軽減された」と回答した職員の割合)
- ケアの質の維持・向上データ:
- LIFEに提出しているADL維持等加算のデータ(Barthel Index等)
- 褥瘡発生率の推移
- 転倒・転落事故の発生件数の推移
- 利用者満足度調査の結果
- 栄養状態の改善データ(BMI等)
- 試行期間の報告書:3ヶ月以上の試行運用期間中に実施した取り組みとその成果をまとめた報告書(A4で2~3枚程度)
準備時の注意点
- 【最重要】「業務が効率化された」だけでは不十分です。必ず「ケアの質は落ちていない(または向上している)」ことを示すデータをセットで提出してください。
- データは客観的なものが求められます。「職員が楽になったと言っている」という主観的な記述だけでなく、タイムスタディ調査(実際に作業時間を計測)や、LIFEの数値データを活用してください。
- 比較データを作成する際は、「導入前3ヶ月の平均」と「導入後3ヶ月の平均」を比較するなど、一定期間の平均値を用いることで、データの信頼性が高まります。
- LIFEデータの活用を強く推奨:既にLIFE加算を取得している事業所は、LIFEフィードバック票をそのまま添付することで、ケアの質の証明として使用できます(詳細は「4. LIFE(科学的介護)との賢い連携法」を参照)。
- 試行期間の報告書には、以下の項目を含めてください:
- 試行期間の開始日と終了日
- 試行期間中に実施した職員研修の内容と回数
- 委員会の開催実績(議事録の要約)
- 機器の運用上の課題と改善策
- 数値データの比較表(グラフがあると効果的)
準備方法
自社で調査・集計
※データ収集には時間がかかるため、加算(I)を目指す場合は、加算(II)の算定中から計画的にデータを蓄積しておくことが重要です。
データ準備の落とし穴
「機器を導入したら自動的に効果が出る」と思い込み、導入前のデータを取っていなかったため、比較ができないというケースが多発しています。加算(I)を視野に入れている場合、機器導入前の段階で必ず「現状調査」を実施し、ベースラインデータを確保してください。
成果データの具体例(参考)
項目 | 導入前(3ヶ月平均) | 導入後(3ヶ月平均) | 改善率 |
職員1人あたり残業時間 | 15.2時間/月 | 10.8時間/月 | ▲29% |
夜勤帯の巡視回数 | 8回/夜 | 5回/夜 | ▲38% |
記録業務時間 | 28分/人 | 16分/人 | ▲43% |
利用者ADL平均点(Barthel Index) | 68.5点 | 69.2点 | +1.0% |
転倒事故発生件数 | 4件/月 | 2件/月 | ▲50% |
※このような比較表を作成し、グラフを添えることで、説得力のある成果報告になります。
注意:自治体ローカルルール
国が標準様式を示していますが、自治体によっては独自の「誓約書」や「機器一覧表」の添付を求められる場合があります。必ず管轄自治体の最新の「介護給付費算定に係る届出書類一覧」を確認してください。
3. 具体的な申請ステップ(電子申請手順)
現在は紙での郵送や持参ではなく、国が運営する「電子申請・届出システム」を利用した申請が推奨(一部義務化)されています。
STEP 1:GビズIDの取得と確認
電子申請には法人代表者アカウントである「GビズIDプライム」または「GビズIDメンバー」が必要です。IDの発行には2週間程度かかる場合があるため、未取得の場合は最優先で手続きしてください。
STEP 2:資料のデジタル化(PDF化)
契約書やカタログなどの紙資料はすべてスキャンし、PDFファイルにしておきます。ファイル名は「04_機器契約書.pdf」のように中身が分かるようにリネームしておきましょう。
STEP 3:電子申請システムでの入力
- 「介護事業所・生活関連情報検索」サイト等のリンクから「電子申請・届出システム」へログイン。
- 「申請・届出の作成」メニューから「体制届出(加算届)」を選択。
- 対象の事業所を選び、算定開始年月を入力。
- 様式(エクセル等)をアップロード、または直接入力フォームに入力。
- 添付資料(証拠書類)をアップロード。
STEP 4:申請期限の厳守
加算を取得したい月の前月15日(自治体により締め切り日が異なる場合あり、例:10日や月末など)までに申請を完了させる必要があります。
例:4月1日から算定開始したい場合 → 3月15日までに申請完了
4. LIFE(科学的介護)との賢い連携法
特に「加算(I)」を申請する場合、「ケアの質が確保されていること(生産性を上げても質が落ちていないこと)」を示すデータの提出が求められます。ここで新たに独自のアンケートを行うのは手間ですが、LIFE(科学的介護情報システム)を活用することで効率化できます。
LIFEデータを流用するメリット
- 二度手間を防止: 既にLIFE加算などのために収集しているADLデータや栄養状態などのデータを、「ケアの質が維持されている証拠」としてそのまま利用可能です。
- 客観性の確保: 手書きのアンケートよりも、国定の指標(Barthel Index等)を用いたデータの方が、実地指導等の際にも説得力が高まります。
具体的な連携手順
- LIFEへ定期的にADL等のデータを送信する(既存業務)。
- 生産性向上推進体制加算の実績報告時期に、LIFEからフィードバック票(自施設の推移データ)をダウンロードする。
- 「実績報告WEBシステム(加算報告用の専用サイト)」にて、ケアの質に関する項目にLIFEのデータを参照・転記、またはPDFとして添付する。
※報告先システムについて
生産性向上の実績報告は、LIFEシステムそのものではなく、専用の「生産性向上推進体制加算 実績報告ツール(WEBフォーム)」で行うケースが一般的です。厚労省からの通知を見逃さないようにしましょう。
5. 絶対に忘れてはいけない「運用ルール」
申請が受理されても終わりではありません。以下の運用ルールを守らないと、実地指導(監査)で「算定要件を満たしていない」とみなされ、加算の返還を求められる恐れがあります。
①「生産性向上委員会」の定期開催(3ヶ月に1回以上)
形骸化させず、実質的な議論を行ってください。構成メンバーには現場の介護職員を含めることが必須に近い推奨事項です。
議事録に残すべき議題例:
- 見守りセンサーの誤検知回数の推移と、設定見直しの検討
- インカムを活用した情報共有の成功事例・失敗事例
- 記録ソフト入力にかかる時間の変化と、タブレット不足の解消について
- ヒヤリハット報告の分析(機器導入による変化)
※議事録は必ず作成し、5年間保存してください。
議事録に残すべき議題
例:
- 見守りセンサーの誤検知回数の推移と、設定見直しの検討
- インカムを活用した情報共有の成功事例・失敗事例
- 記録ソフト入力にかかる時間の変化と、タブレット不足の解消について
- ヒヤリハット報告の分析(機器導入による変化)
※議事録は必ず作成し、5年間保存してください。
② 年に1回のデータ報告(実績報告)
毎年度、国が指定する時期(例:3月など)に、1年間の取り組み成果をオンラインで報告する義務があります。「機器を導入して終わり」ではなく、「効果が出ているか」を継続的にウォッチし続ける必要があります。
③ 機器のメンテナンスと更新
要件となっている機器が故障したまま放置されていると、その期間は加算要件を満たさないことになります。予備機の確保や、迅速な修理体制も整えておきましょう。
6. よくある質問(FAQ)と失敗事例
Q. Wi-Fiが一部の部屋にしか届いていませんが、加算(I)は取れますか?
A.難しい可能性が高いです。
加算(I)では「見守り機器が全居室に設置されている」かつ「インカム等が常時使用可能」である必要があります。Wi-Fiが届かず機器がオフラインになるエリアがある場合、要件を満たさないと判断されるリスクがあります。
Q. 夜勤職員の配置緩和は必須ですか?
A.必須ではありません。
生産性向上推進体制加算は、人員配置基準の特例(緩和)とセットで語られることが多いですが、加算単体での取得も可能です。無理に人員を減らす必要はありません。
Q. 【失敗事例】委員会を開催していたが、議事録が残っていなかった。
対策: どんなに短い会議でも、開催日時、出席者、話し合った内容、決定事項を記録したペーパーを1枚残し、ファイリングしてください。「やったつもり」は監査では通用しません。
DX医療介護ナビ 編集部
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