介護現場の生産性向上ガイドライン|改善活動の成果を確認

目次

2024年度の介護報酬改定における生産性向上推進体制加算(I)(II)の新設や、令和7年度から処遇改善加算の要件としても記載がされることで注目されている「生産性向上ガイドライン」。

本記事では生産性向上ガイドラインについて、できるだけ優しく実用できるよう解説をしていきます。

生産性向上ガイドラインってなに?

介護施設で生産性向上に取り組む際、厚生労働省の生産性向上ガイドラインを活用することは非常に有効です。

しかし、ガイドラインを初めて読むと、その情報量の多さに圧倒され、どこから手をつけて良いか分からなくなることもあります。

本記事では、ガイドラインを効果的に活用するための具体的な方法と、介護職員やプロジェクトメンバー、経営者がこれを理解し、実践するためのアプローチを順を追って紹介していきます。

生産性ガイドライン

改善活動の成果を確認する

介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 改善方針を立てる

前頁では、改善方針をたて進捗管理シートを使いながら改善活動に取り組むというSTEPを見てきました。

次はPDCAサイクルでいうとCA(Check,Action)の部分です。

現場の課題に対応し、打ち手方針を策定し、取り組んだ結果どうなったのか?というのを評価し、さらなる改善を行うSTEPです。

評価のために重要になってくるのがKPI(重要業績評価指標)という考え方です。

物事の捉えかたというのは人によって異なります。

そのため、プロジェクトを行った評価も人によってバラバラになってしまいますので、誰にとっても同じように明確に評価を行う必要があります。

例えば「夜勤者が楽になった」という表現ではその度合いは人によって異なることですが、「夜勤者の残業時間が30分減った」「夜勤者の歩数が30%減った」という数字の表現であればどの人にとっても共通の物差しで示すことができます。

よって、誰にとっても同じ物差しでプロジェクトを評価するために数値指標を用いるのが通例です。

これがKPIというものです。

 

生産性向上推進体制加算の算定のための報告書にもしっかりとKPIが設定されているので、今後介護施設におけるKPI設定は重要なものになっていく事が見て取れます。(生産性向上推進体制加算のKPIについては下記参照)

 

KPI設定の重要性

KPIを適切に設定することで、以下のような効果が期待できます。

  • 目標の明確化と共有
  • 進捗状況の可視化
  • 改善点の特定と対策立案
  • スタッフのモチベーション向上

例えば、ノーリフティングケアを行うために、移乗支援介護ロボットの普及プロジェクトを行っていたとしましょう。

プロジェクトの目指す分かりやすい指標となるがKPIになります。

「移乗支援介護ロボットを今よりも多く使うようにしましょう」よりは「移乗支援介護ロボットを今よりも50%多く使うように心がけましょう」とする方が数字が入っているため目標は明確です。

ちなみに、小さなことですが、移乗支援介護ロボットの置き場所を変更するだけで利用頻度は増えることが分かっています。

もし、「移乗支援介護ロボットの置き場所を変えたことによって、使用回数が30%向上した」ことが分かれば、場所変更プロジェクトのアプローチの方向性は正しかったと言えます。

この30%という小さな改善でプロジェクトメンバーや現場スタッフはモチベーションを高められます。

一方で目標値を50%改善できるると見積もっていた場合は少々足りないことになります。

その場合、なぜ?を考えることで、例えば「簡易マニュアルが同じ場所になかった」などの原因を考え出せ、さらなる改善につなげていく事ができるようになります。

これを繰り返すことで結果的には大きな改善と生み出せるようになるのです。

 

KPI設定例

はじめは数値目標であるKPIの設定に戸惑うことが多いかもしれません。

介護施設内でよく使われる指標はよく使われるものですので参考にしてください。

カテゴリKPI例数値目標例事例
1. 利用者満足度・月次利用者満足度アンケートのスコア
・苦情件数の削減率
・満足度スコア:90点以上(100点満点中)
・苦情件数:前年比20%削減
A特別養護老人ホームでは、毎月の利用者満足度アンケートを実施し、スコアが85点を下回った項目について重点的に改善策を講じました。その結果、1年間で平均スコアが82点から93点に向上し、苦情件数も30%削減されました。
2. サービス提供時間の遵守率・予定サービス時間の遵守率
・サービス開始遅延時間
・遵守率:90%以上
・平均遅延時間:5分以内
B訪問介護事業所では、目的地情報から最も早く送迎を行えるシミュレーションシステムを導入し、送迎時間を最適化しました。その結果、サービス時間遵守率が92%から99%に向上し、利用者からの評価も改善しました。
3. 職員の業務効率・直接介護時間の割合
・記録作業時間
・1人あたりの利用者対応数
・直接介護時間:70%以上
・記録作業:1件5分以内
・利用者対応:デイサービスで1日8人以上
C介護老人保健施設では、音声入力システムを導入し、記録作業の効率化を図りました。その結果、記録作業時間が1件あたり平均10分から4分に短縮され、直接介護時間の割合が58%から73%に増加しました。
4. ICT・介護ロボットの活用率・見守りシステムのアラート対応率
・見守りシステムによる夜間巡視回数の削減率
・インカムの日常業務での使用頻度
・インカムによる緊急時対応の迅速化率
・アラート対応率:98%以上
・夜間巡視回数:50%削減
・インカム使用:1人1日30回以上
・緊急時対応:平均2分以内
D特別養護老人ホームでは、見守りセンサーと連動したスマートフォンアプリを導入し、夜間の巡回業務を効率化しました。さらに、インカムを全職員に配布し、情報共有の迅速化を図りました。その結果、夜勤スタッフの労働時間が20%削減され、利用者の睡眠の質も向上しました。また、緊急時の対応時間が平均5分から2分に短縮されました。
5. 職員の定着率・満足度・年間離職率
・職員満足度スコア
・有給休暇取得率
・離職率:10%以下
・満足度:80点以上
・有給取得率:70%以上
E介護事業所では、生産性向上委員会による現場課題のヒアリングを定期的に行うようにしました。その結果、年間離職率が25%から8%に低下し、職員満足度スコアも65点から85点に上昇しました。
6. 介護事故・ヒヤリハット・介護事故発生件数
・ヒヤリハット報告件数
・事故防止対策実施率
・事故件数:前年比30%削減
・ヒヤリハット:月50件以上
・対策実施率:100%
F介護老人福祉施設では、ヒヤリハット報告を奨励し、報告件数に応じてポイント制度を導入しました。その結果、月間のヒヤリハット報告件数が平均20件から70件に増加し、重大な介護事故が50%削減されました。
7. 研修・スキル向上・職員1人あたりの年間研修時間
・資格取得率
・スキルマップの達成率
・研修時間:年30時間以上
・資格取得率:80%以上
・スキルマップ:90%以上
G訪問介護事業所では、オンライン研修システムを導入し、スタッフが自由な時間に学習できる環境を整備しました。その結果、年間研修時間が1人あたり15時間から40時間に増加し、介護福祉士資格取得率も60%から85%に向上しました。
8. 経営指標・利用者1人あたりの収益
・人件費率
・稼働率
・月間収益:15万円以上
・人件費率:60%以下
・稼働率:90%以上
H通所介護事業所では、稼働率向上のためのマーケティング施策を実施し、地域のケアマネージャーとの連携を強化しました。その結果、稼働率が75%から95%に向上し、利用者1人あたりの月間収益が12万円から16万円に増加しました。
9. 多職種連携・多職種カンファレンスの実施回数
・情報共有の迅速性
・連携満足度
・カンファレンス:月2回以上
・情報共有:1時間以内
・満足度:85点以上
I介護老人保健施設では、クラウド型情報共有システムを導入し、多職種間のコミュニケーションを活性化しました。その結果、重要情報の共有時間が平均6時間から30分に短縮され、連携満足度も70点から90点に向上しました。
10. 地域連携・社会貢献・地域イベントへの参加回数
・ボランティア受入れ人数
・地域住民向け講座の開催回数
・イベント参加:年6回以上
・ボランティア:月20人以上
・講座開催:年4回以上
J特別養護老人ホームでは、地域住民向けの介護教室を定期的に開催し、施設の一部を地域交流スペースとして開放しました。その結果、地域からのボランティア参加が月平均5人から25人に増加し、施設に対する地域の理解と支援が大幅に向上しました。

 

生産性向上推進体制加算のKPI

2024年度(令和6年度)から新設された「生産性向上推進体制加算」を取得するためには、以下のような評価項目に基づいたKPI設定と実践が求められますので、先のKPI例に加えて意識しておくのが良いでしょう。(目標値は近年の多くの産業や目標で使われる数字から計算した参考値です)

評価項目KPI例目標値(参考値)
利用者QOLの変化

利用者向け調査票対象

利用者におけるQOLの変化
WHO-5 精神的健康状態表

13点以上(25点満点中)
総業務時間および超過勤務時間

施設向け調査票 (労働時間等調査票)

月間平均残業時間

10時間以内
有給休暇取得状況有給休暇取得率70%以上
評価項目KPI例目標値(参考値)
職員の心理的負担感

職員向け調査票

心理的負担評価

SRS-18心理的ストレス反応測定尺度

15点以下
タイムスタディ調査による業務分析

職員向けタイムスタディ調査票

直接介護時間の割合

70%以上
 ※加算Ⅰの場合は成果の報告も必要になる  

まとめ KPI設定と活用のポイント

介護施設における適切なKPI設定と生産性向上の取り組みは、サービスの質の向上と持続可能な経営の両立に不可欠です。本記事で紹介したKPI例や事例を参考に、各施設の状況に合わせた効果的なKPI設定と実践を行ってください。

 

 

【KPI設定と活用のポイント】

  1. 現状分析から始める
    まずは現在の状況を正確に把握し、改善が必要な領域を特定しましょう。(前頁までの「課題の見える化」の手順)
  2. 具体的で測定可能な指標を選ぶ
    抽象的な目標ではなく、数値で測定できる具体的な指標を選びましょう。
  3. 達成可能かつ挑戦的な目標を設定する
    簡単すぎず、かといって非現実的でもない、適度に挑戦的な目標を設定しましょう。
  4. 定期的なモニタリングと見直し
    KPIの進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて目標や取り組みを見直しましょう。
  5. 全職員との共有と理解促進
    KPIとその意義について全職員と共有し、チーム全体で目標達成に向けて取り組む体制を作りましょう。
  6. 成功事例の共有と横展開
    KPI達成に成功した取り組みを組織内で共有し、他の部門や施設でも活用できるよう横展開を図りましょう。

また、KPIの設定と運用は、単なる数字の管理ではなく、介護の価値を上げ生産性を向上させるためという目的を見失わないよう注意が必要です。

生産性向上の取り組みは、職員の負担軽減と働きがいの向上、そしてよりよい施設運営にもつながります。

KPIを活用した継続的な改善活動を通じて、利用者、職員、そして組織全体がWin-Winの関係を築ける介護施設づくりを目指してください。

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