介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 打ち手別の事例紹介

目次

2024年度の介護報酬改定における生産性向上推進体制加算(I)(II)の新設や、令和7年度から処遇改善加算の要件としても記載がされることで注目されている「生産性向上ガイドライン」。

本記事では生産性向上ガイドラインについて、できるだけ優しく実用できるよう解説をしていきます。

生産性向上ガイドラインってなに?

介護施設で生産性向上に取り組む際、厚生労働省の生産性向上ガイドラインを活用することは非常に有効です。

しかし、ガイドラインを初めて読むと、その情報量の多さに圧倒され、どこから手をつけて良いか分からなくなることもあります。

本記事では、ガイドラインを効果的に活用するための具体的な方法と、介護職員やプロジェクトメンバー、経営者がこれを理解し、実践するためのアプローチを順を追って紹介していきます。

生産性ガイドライン

生産性向上ガイドラインの全体像

生産性向上ガイドラインは大きく4つの項目から成り立っています。まずは大まかに全体像をつかみましょう。

その後詳細な説明のページを読んでみましょう。

  1. 生産性を向上させるための意識の持ち方
  2.   
  3. 改善活動のためのステップ
  4.   
  5. 改善活動で使えるツール
  6.   
  7. 打ち手別の事例紹介

打ち手別のポイントと事例紹介

生産性向上ガイドラインには介護テクノロジーや介護助手などを利用したタスクシフトや意識改革に関する事例紹介が掲載されています。

 

この事例紹介は「7つの打ち手」別の改善事例で、実際に全国の介護施設で取り組んだ事例について、画像やイラストを交えて「現状」「取組」「成果」が記されているため、同じような課題を持つ施設を見つけて、取り組みの参考にしてみると良いでしょう。

 

 

■「7つの打ち手」の説明記事

介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 まずは意識改革

 

 

■課題発見の記事(事例を見る前の段階に行うべき作業)

介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 課題の見える化

 

以下、7つの打ち手別の事例の概要について記します。

  • 1.職場環境の整備
  • 2.業務の明確化と業務の明確化と役割分担(1)業務全体の流れの再構築
  • 2.業務の明確化と業務の明確化と役割分担(2)テクノロジーの活用
  • 3.手順書の作成
  • 4.記録・報告様式の工夫
  • 5.情報共有の工夫
  • 6.OJTの仕組み作り
  • 7.理念・行動指針の徹底

1.職場環境の整備

単に職場環境の整備といってもとても広い意味です。

次のような意識や取り組みを行っていくことになります。

 

【意識】

・ 5Sの視点(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)に基づいた安全な職場環境整備が重要。

・目的は安全な介護提供と働きやすい職場づくり。

・効果として、必要なものがすぐに取り出せ、作業にすぐ取りかかれる状態を維持できる。

 

【主な取り組みステップ】
1. 5Sの考え方・意味を理解する
2. 改善が必要な箇所をリスト化する
3. 改善項目の担当者・期限を決める
4. 不要物の廃棄、物の適切な配置、美しく整える

 

【事例】

事例として、サニーベイルイン鳴海(有料老人ホーム)での取り組み等を紹介しています。

プロジェクトチームを結成し、気づきシートや因果関係図を活用して課題を可視化。5S活動を計画的に実施し、職員の意識改革につながったということです。

高度な機器やICTを使用するのではなく、お金もかからずすぐに手を付けられるような5Sに着目し成功体験を作り出し、業務改善と職員のモチベーション向上を得られた好例です。

生産性向上ガイドライン 職場環境の整備 サニーベイルイン鳴海

介護サービス事業(施設サービス分)における 生産性向上に資するガイドライン  より良い職場・サービスのために 今日からできること (業務改善の手引き) パイロット事業令和2年度版

2.業務の明確化と役割分担 (1)業務全体の流れの再構築

業務全体の流れを改めて確認し3S,5Mの視点を持って再構築していきます。

「昔からこうしている」「●●さんがこう言っている」という固定観念を一度とっぱらい改善のための取り組みを行っていくことになります。

 

【意識】

・1日の業務全体の流れを時間に沿って書き出し、「集約」「分散」「削減」の3つの視点で見直す。

・見直した業務の流れを守ることで、個々の業務時間の延長を防ぎ、残業時間を減らせる。

・業務ごとに範囲とポジションを決め、役割と手順を明確にすることが重要。

 

【主な取り組みステップ】
1. 業務時間調査で現状を見える化
2. ムリ・ムダ・ムラ(3M)を特定
3. 3Mを取り除き、新たな業務の流れを作成
4. 役割分担を見直し

5. 業務の手順や職員の役割を再整理

 

【事例】

事例として、社会福祉法人善光会 フロース東糀谷での取り組み等を紹介しています。

当施設では職員の経験に頼ったオペレーションになっており他の介護施設よりも介護職員が多いという課題を持っていました。

そこで、タイムスタディ、業務分類(直接介助、間接業務など)を行うことで介護職員の業務を見える化しました。

間接業務にあたる掃除や洗濯を外部業者にアウトソースし、「オペレーションの模範となる」という理念も作り上げ介護職員の標準的なオぺーレーションを設計していきました。

結果的には介護職員1人当たりの利用者の配置が1.86から2.85に向上しました。

社会福祉法人善光会 フロース東糀谷は「介護テクノロジーの導入が進んでいる施設」として有名ですが、この取り組みのようにロボットやICTを使う以前の取り組みをしっかり行える分析体制や組織風土を作り上げているのは見逃せないポイントです。

 

つまり、テクノロジーの導入が先にあるのではなく、組織マネジメント力が先にありその後にテクノロジーが付いてくるということです。

 

組織マネジメントに関する記事はこちらを参照してください。

介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 プロジェクト開始に必要なこと

生産性向上ガイドライン .業務の明確化と役割分担 (1)業務全体の流れを再構築 社会福祉法人善光会フロース東糀谷

介護サービス事業(施設サービス分)における 生産性向上に資するガイドライン  より良い職場・サービスのために 今日からできること (業務改善の手引き) パイロット事業令和2年度版

2.業務の明確化と役割分担 (2)テクノロジーの活用

テクノロジーを使用することで、従来は出来なかったことが出来るようになってきています。

例えば重い利用者を簡単に移乗する、離れた利用者の部屋の様子を見に行かずに確認する、記録を声で登録する、データを自動的に蓄積するなどです。

テクノロジーを利用することで介護業務のオペレーションそのものを変革することが出来ます。

 

 

【意識】

・テクノロジー導入の目的は、職員の身体的・精神的負担軽減と、利用者との触れ合い時間の増加であることを忘れない。

・導入前には実機での検証を行い、使用感や操作方法を確認することが重要。

・導入は小規模から始め、徐々に拡大することが推奨される。

・テクノロジーの効果的な活用には、継続的な使用と職員間の情報交換、外部専門家への相談が重要。

・施設独自の活用マニュアルを作成し、継続的に改善していくことが推奨される。

 

 

【主な取り組みステップ】
1. 導入チーム・プロジェクトの結成と経営者のキックオフ宣言
2. 課題とテクノロジーのマッチング(あくまで現場の課題主体で)
3. 導入計画・活用計画の具体的な立案
4. 継続的な使用で慣れる

5.使用、評価、改善のPDCAを回す

 

【事例】

事例として、排泄予測システム、見守りシステム、自動寝返り支援ベッド、パワードスーツなどの介護テクノロジー(ICT・ロボット)を用いた施設が挙げられています。

見守りシステムでは遠隔で見守りを行えるようになることで、職員の定期巡回負担軽減や利用者の眠りの妨げ防止に繋がったり、利用者の排泄や睡眠のデータを得ることで、生活パターンを把握し予測した質が高く効率の良い介護を両立することが可能になります。

 

パワードスーツや移乗支援の介護ロボットを用いることで、無理な力を使わず安全に利用者の介護を行うことができるようになり、職員の不安や利用者の安全面で質が上がります。

生産性向上ガイドライン .業務の明確化と役割分担 (2)テクノロジーの活用

介護サービス事業(施設サービス分)における 生産性向上に資するガイドライン  より良い職場・サービスのために 今日からできること (業務改善の手引き) パイロット事業令和2年度版

3.手順書の作成

手順書は単なる業務マニュアルではなく、職員の業務の質の向上と個別ケアの実現を支援するツールとして位置づけられています。

手順書の作成は他の打ち手(とくに「テクノロジーの利用」)を成功させるためにも重要な打ち手です。

 

【意識】

・手順書は理念やビジョンの共有し適切なケア判断のための道標となる。
・品質の高い介護である個別ケアに柔軟に対応するためのトレーニングツールとなる。

・サービス品質の担保と職員の熟練度向上を目指す。

・業務負担を分散しチームワークを向上させることでエンゲージメント(帰属意識とやりがい)を高める。

・職員の経験値、判断基準を見える化、手順書は写真や絵で視覚的に分かるようにすると職員が理解しやすくなる。

 

【主な取り組みステップ】
1.現在の職員の業務手順を見える化する(現在の手順や我流の手法があることを皆で理解する)

2. ゼロベース(慣習や様々な障害がない状態)で考えムリ・ムダ・ムラ(3M)の発見と効率化の工夫を考える

3. 不要なものは無くす、よく使う者は使いやすい場所に置くなど効率的な業務手順を決める
4. キーとなるメンバーは発信を続け、他のスタッフを巻き込み継続的な使用で慣れる。

5.使用、評価、改善のPDCAを回し、小さな成功体験を積み重ねる。

 

【事例】

事例として、社会福祉法人生愛福祉事業団 生愛ガーデンの取り組みが挙げられています。

写真による例示が入った手順書を作成することで、業務を熟知した介護職員以外でも、的確に業務ができるようになりました。

下記写真はとろみ付きお茶の作り方や関連する物の置き場所についてまとめた手順書です。

さらに利用者ごとの必要手順を明確化することで、新人でも介護職以外でも、業務の質を担保して業務を行えるようになりました。

結果として、介護職員は入浴業務などのコア業務に集中できるようになり、日勤リーダー介護職の残業を毎日30分削減できています。

手順書の作成

介護サービス事業(施設サービス分)における 生産性向上に資するガイドライン  より良い職場・サービスのために 今日からできること (業務改善の手引き) パイロット事業令和2年度版

4.記録・報告様式の工夫

介護記録を行うこと自体が目的になっているケースをよく見ますが、介護記録は利用者に質の高いサービスを提供していくための重要なデータとなっていることを忘れてはなりません。

そのため、属人的な記載(「良い」などの単語は人によってどの程度良いかの捉え方が異なる)や不要な記載を極力無くしすこと、そして、できるだけ記録事態の手間が負担にならないようにしていく事が重要です。

 

 

【意識】

・不要な文書は削除し、項目を整理することで、情報の読み解きが容易になる。

・記入のルールを設定し、抜け漏れやばらつきを防ぐ。

・様式の向きや文字や欄の大きさを変更するなど、見やすさを改善する。

・転記の無駄をなくすために複数の帳票に分散している情報を統合する。

・目標設定と達成状況を記載し、職員の達成力を高める。

 

【主な取り組みステップ】
1.現在の帳票・項目の必要性を見直し、不要なものは削除し、必要なものは足す、変更すべきものは変更する。

2. 新しい帳票を作成し記入方法を決める。

3. 不要なものは無くす、よく使う者は使いやすい場所に置くなど効率的な業務手順を決める。
4. 1週間程度の試行運用後に評価・改善を行う。
5.職員全員で意見を出し合い、使いやすさを向上させる。

 

【事例】

事例として、社会福祉法人ライフ・タイム福島 特別養護老人ホームロング・ライフの取り組みなどが挙げられています。

記録帳票の多さや転記、記録内容や単位が人によって異なることでミスや記入漏れが発生していた。

そこで、タブレットの活用により点在していた帳票情報を集約し、写真を活用するなどすることで、記録の質と量が向上しました。

この取り組みにより1人当たりの記録作業時間が170.4分/月削減され、帳票は3つ削減することができました。

記録・報告様式の工夫

介護サービス事業(施設サービス分)における 生産性向上に資するガイドライン  より良い職場・サービスのために 今日からできること (業務改善の手引き) パイロット事業令和2年度版

5.情報共有の工夫

ICT機器の活用は情報共有を効率化します。

タブレット端末やパソコンを使用し、介護記録、情報共有、請求事務を一元管理でき、転記作業が不要になります。

データ入力の定型化やチェックボックス式、音声入力の活用で入力時間は短縮されます。

また、画像や動画の活用で視覚的な情報共有も可能です。

インカム(トランシーバー)の使用も効果的で、リアルタイムでの情報共有により、申し送りや指示出しの時間を短縮できます。

 

【意識】

・定型化、チェックボックス式、音声入力の活用
・画像、動画の活用による視覚的データの共有

・転記作業の削減
・タブレット端末での外部からのデータ入力
・介護記録、情報共有、請求事務の一気通貫システム

 

【主な取り組みステップ】
1.共有する情報の整理を行います。

2.情報を使う目的を明確化し「こういう理由でこういう情報が必要だ」と納得できるようにします。
3.いつ、だれが、どこで、どういう状況で、何で情報収集や記録を行うかのルールを作ります。

4.いつ、だれが、どこで、どういう状況で、何で情報共有を行うかのルール設定を行います。

 

【事例】

事例として、SOMPOケア株式会社 そんぽの家 西東京 などの事例が挙げられています。

介護記録システムの情報を申し送りに活用することで、申し送り用紙を書く手間(情報の収集や整理、分析などでも現実的には多くの時間がかかる)が省けるようになりました。

結果として施設全体で月間83.5時間の残業時間を削減しています。

 

 

他にも、インカムを用いた情報共有によりリアルタイムで遠隔でコミュニケーションが取れるようになり、職員を探す時間が減ったり情報共有にかかる時間が減ったという報告があります。

 

またスマホでの情報共有において、外国人スタッフだと翻訳機能が使えることは大きなサポートになるということも分かっています。

OJTの仕組み作り

介護サービス事業(施設サービス分)における 生産性向上に資するガイドライン  より良い職場・サービスのために 今日からできること (業務改善の手引き) パイロット事業令和2年度版

6.OJTの仕組み作り

OJT (On the Job Training)は、新人教育だけでなく、ベテラン職員やマネジメント層の人材育成にも活用できる実践力を身につける効果的な方法です。

また、 教育担当職員の教え方にばらつきがあると、施設全体で業務の質を一定に保つのが難しくなる可能性があります。したがって、 指導手順が属人的にならないように、標準的な手順に沿って指導することが重要です。 

 

【意識】

・教育内容と手順を統一することで、施設全体でのケアの質を一定化させる。
・教える側に「教える」ことを教育し、指導手順を標準化させる。

・相手の能力、知識、意欲、正確に合わせた指導が必要となる。

 

【主な取り組みステップ】
1.目標、教えるべき内容、手順を明確にし、 一貫した人材育成の仕組みを作る。

2.定期的に職員を評価し、その結果を伝えることで、職員の不公平感を出さないようにする。
3.指導者向けの、研修会や勉強会などを実施し、指導するための技術を習得させる。

 

【事例】

事例として、医療法人社団健成会 リバーサイド御薬園の取り組みが示されています。

職員教育や利用者のリハビリ内容を議論したりアセスメントする時間が十分に取れていなかった当施設では、5分間ミーティングで後輩からの疑問や質問を付箋で共有するようにしました。

その付箋に対して別の色の付箋で先輩が回答を行います。

質問の回答を行う側はどうすれば分かりやすいく伝えられるかを考えるようになれ、後輩はフィードバックが得られ5分間ミーティングの翌日には訓練内容に活かせるようるようになりました。

情報共有の工夫

介護サービス事業(施設サービス分)における 生産性向上に資するガイドライン  より良い職場・サービスのために 今日からできること (業務改善の手引き) パイロット事業令和2年度版

7.理念・行動指針の徹底

介護現場では、手順書やマニュアルに記載されていないイレギュラーな事態が発生します。

また、昨今の介護現場の生産性向上の流れによりこれまでにはない新たな取り組みを行うことも増えてきました。

このような場合には、法人の理念やビジョン、行動指針に立ち返って対応を考えること、時代に合った方針や指針を記すことがが重要になってきます。

 普段から理念・行動指針を全職員に徹底することで、均質なサービス提供、新たな取り組みの浸透、不測の事態にも冷静な判断と行動ができる職員の育成につながります。

 

【意識】

・イレギュラーな事態への対応や優先順位決定の指針となる
・手順書やマニュアルでカバーできない状況での判断基準となる

・職員の自律的な行動を促進しながらも組織全体での一貫した対応を可能にする

・理念や指針は時代とともに変化する可能性があるため定期的な見直しと更新が必要である

 

【主な取り組みステップ】
1.理念・方針を明記し全ての職員が見れるようにする

2.職員と対話を行い理念・方針の浸透度を定期的にチェックする

3.個々の職員の業務と理念のつながりを意識づける。

4.ツール(名刺サイズのカードなど)を活用して理念を再確認・浸透させる取り組みを行う。

 

【事例】

事例として、社会福祉法人善光会 フロース東糀谷の取り組みなどが示されています。

固定観念が強く、元々行っていたことが正しいと考える職員が多く、現場の価値観と経営側のビジョンをどのようにすり合わせていくがが課題となっていました。

そこで全職員に理念が共有されているかの研修を定期的に行い、理念を自らの業務に落とし込めるようなケーススタディを行い、発表なども行いました。

さらに、経営層が現場に出向き現場職員を対話する機会を設けました。

 

結果として、職員が法人のビジョンを自分の業務に落とし込んで考えることができるようになりました。

※「法人のビジョンを自分の業務に落とし込んで考える」とは次のような考え方です

①法人のビジョンとして「テクノロジーを用いた安心安全な介護」があるとします。


②職員の業務業の中に「移乗」介護介護があります。


②の移乗介護業務を行う方法として「1人の力で移乗する」「複数人で移乗する」「移譲支援ロボットを使う」など複数の方法が考えられます。
個人ではこの中のどの方法が正しいかは個人の判断に委ねられてしまいますが、①にに照らし合わせると法人の考え方としては「移譲支援ロボット移譲支援ロボットを使う」が法人の方針として正しい業務方法になります。個人の判断が入らないことでサービス品質の均質化に繋がります。

介護サービス事業(施設サービス分)における 生産性向上に資するガイドライン  より良い職場・サービスのために 今日からできること (業務改善の手引き) パイロット事業令和2年度版

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