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生産性向上推進体制加算とは
2024年度の介護報酬改定において生産性向上推進体制加算が新設されました。
生産性向上推進体制加算は、人材不足が深刻な介護現場の生産性向上だけでなく、さらなる上位目標として将来の人材確保のため介護職の魅力を向上させるために、日本が推し進めるものであると考えられます。
生産性向上推進体制加算はテクノロジーの導入と活用により介護サービスの質を確保しつつ、職員の負担軽減を図ることを目指します。
本記事では生産性向上推進体制加算を取得していくためのステップについて記します。
生産性向上推進体制加算の概要
加算の種類と単位数
- 加算(Ⅰ): 月100単位
- 加算(Ⅱ): 月10単位
加算(Ⅰ)は加算(Ⅱ)の上位区分であり、同時に算定することはできない。
加算(Ⅱ)の要件
- 利用者の安全、介護サービスの質の確保、職員の負担軽減に関する委員会の設置と3ヶ月に1回以上の開催
- 生産性向上ガイドラインに基づいた継続的な改善活動の実施
- 見守り機器、インカム、介護記録ソフトウェア等のICT機器を1つ以上導入
- 職員間の適切な役割分担の実施
- 年1回以上業務改善の効果を示すデータをオンラインで厚生労働省に提出
加算(Ⅰ)の要件
加算(Ⅰ)は加算(ⅠⅠ)のステップアップという位置づけです。
加算(Ⅰ)の要件は次のようになります。
- 加算(Ⅱ)(前項)の全要件を満たし、その実績データにより業務改善の成果が確認されていること
- 見守り機器等のテクノロジーを複数導入(見守り機器は全居室に設置、インカムは全介護職員が使用)
- 職員間の適切な役割分担の取り組みを行っていること
- 加算(Ⅱ)の実績データが導入前後で維持・改善していること
- 利用者の満足度評価(WHO-5調査、生活・認知機能尺度)
- 介護職員の総業務時間と超過勤務時間の調査
- 年次有給休暇の取得状況
- 介護職員の心理的負担評価(SRS-18調査)
- タイムスタディ調査による業務分析
原則として加算(Ⅱ)から開始し、3ヶ月以上の取り組み後、成果が確認できれば加算(Ⅰ)へ移行します。
ただし、既に生産性向上の取り組みを行っている事業所は、最初から加算(Ⅰ)の算定も可能です。
介護施設が具体的に取り組むべき事項とその手順
前項の概要で簡単に触れましたが、生産性向上のための委員会や、テクノロジーの導入、データの収集・評価については一般的な施設ではなかなか見慣れないものでしょう。
見慣れないものに取り組むハードルは高く感じ、具体的な対策も分からなくなってしまうのではないでしょうか。
そこで、介護施設が生産性向上推進体制加算を算定するために具体的にどのようなことを行っていけばよいかの手順を以下に記しましたので参考にしてください。
①委員会の設置と開催
まずは委員会を発足して、組織内で生産性を向上させるための動きを発生させましょう。
具体的に委員会では何を行えばよいのかと分からない分からない方は下記を参考にしてください。
- 委員会の構成と開催頻度
- 管理者や介護職員、ユニットリーダー、看護師、リハビリ、事務などの幅広い職種が参画する委員会を設置します。
- 3ヶ月に1回以上開催します。(算定要件)
- 利用者の安全及びケアの質の確保のための活動
- 見守り機器や記録システム等から得られる情報を基に利用者の状態変化を確認する。
- 介護テクノロジー(ICTやロボット、機器)の活用方法に関し現状の使い勝手のヒアリングや手順書の変更を検討する。
- 転倒等の安全面から特に留意すべき利用者への定時巡回の実施検討、実施評価について議論する。
- ヒヤリ・ハット事例を収集し原因の分析と再発防止策を検討する。
- 職員の負担軽減及び勤務状況のヒアリング・アンケートの収集
- 職員の心身の負担増加の有無をヒアリングやアンケートから確認する。
- 負担が過度に増えている時間帯の有無を確認する。
- 休憩時間がとれているか、時間外勤務の状況について確認する。
- 介護機器の定期的な点検
- 日々の不具合チェックの仕組みを設け、必要に応じ手順書を作成する。
- メーカーと連携した定期点検を実施する。
- 職員研修の実施
- 介護テクノロジー(ICT・ロボット・機器)の使用方法についての講習会を行う。
- ヒヤリ・ハット事例等の職員周知と再発防止策の実習を行う。
- 職員間の適切な役割分担や意識改革による業務効率化のための研修を行う。
- データの収集と分析
- WHO-5調査、SRS-18調査、タイムスタディ調査等のデータを収集する(入力雛形等については詳しくはこちら(厚生労働省資料))
- 介護職員の労働時間に関するデータを収集する。
- 収集したデータを分析し、改善点を抽出する。
- 改善策の立案と実施
- 分析結果に基づき、具体的な改善策を立案する。
- 立案した改善策を実施し、その効果を次回の委員会で検証する。
- 改善活動のためのPDCAを回す役割を委員会が担う。
- 記録と報告
- 委員会の議事録を作成し、検討内容と決定事項を記録する。
- 年1回、厚生労働省にオンラインで実績データを報告する。
これらの活動を通じて、介護サービスの質の確保と職員の負担軽減を図りながら、継続的な業務改善を推進することが委員会の役割となります。
②職員間の適切な役割分担の実施
業務内容の棚卸を行い業務を見える化しましょう。
見える化した業務を直接介護と間接業務に分けましょう。
さらにここで、5Sや3Mの考え方で業務を無くせないか、手順を簡略化できないかなども検討しましょう。(5Sや3Mの考え方や間接業務についてはこちら)
そして、業務担当の明確化や見直しを行い、間接業務を介護助手やテクノロジーに振り分けましょう。
可能であれば直接介護と間接業務それぞれに費やす時間を計測しましょう。
(実績報告に必要となるため。生産性向上推進体制加算の算定における実績報告 参照)
直接介護と間接業務についてはこちらの表が参考になります。こちらからダウンロードできます。
(「職員向けタイムスタディ調査票」より引用 厚生労働省)
見直しによって得られた時間は、特定の介護職員が介助に集中できる時間帯の設定などを行い、介護の質を上げていきましょう。
③テクノロジーの導入
介護ロボットや介護ICTなどの介護テクノロジーを導入することで間接業務を減らしたり、介護の質を高めるためのデータや通知を得ることができるようになります。
生産性向上推進体制加算の算定では次のように記載があります。
- 見守り機器、インカム、介護記録ソフトウェア等のICT機器を導入
- 加算(I)の場合は複数種類、加算(II)の場合は1つ以上
- 加算(II)の場合は見守り機器は全居室に設置、インカムは全介護職員が使用
また、どの優先順位で介護テクノロジーを導入するかですが、施設によって解決すべき課題の優先順位はことなるため、一義的には決められませんが、一般的には介護記録システムや見守りシステム、合わせてインカムを付けたり、次いで排泄予測システムや移乗支援ロボットというケースが多いようです。
次のフローチャートが参考になりますので、施設としてどのような課題を解決しどのような介護を目指すかで選定してみましょう。
介護ロボットのパッケージ導入モデル(改訂版)より引用
厚生労働省
④介護品質向上と職員負担軽減対策の取組状況確認
- 利用者の安全とケアの質の確保ができているかを確認する
- 職員の負担軽減に繋がる活動ができているかを確認する
改善活動のためのファーストステップでもある、課題発見シートなども合わせて情報を収集すると、そのまま改善活動へ行かせるのでぜひ行いましょう。
また、ヒヤリ・ハットや事故の件数、クレームの数、職員の残業時間や休憩時間の取得状況からも確認が行えます。
これらのデータは次項以降のデータ収集やデータ提出でも活用できます。
次に、取り組みをさらに改善し継続するための活動として次のようなことを行いましょう。
- 介護機器の定期的な点検や手順書の更新を行う
- 意識改革や機器の使用方法、介護技術などの職員研修を実施する
⑤データ収集・分析と報告
次のような指標を用いてデータを収集し、改善活動の前後で、データがどのように変化したのかを分析しましょう。
【利用者に関する指標】
- 利用者の満足度等の評価(WHO-5調査、生活・認知機能尺度)
- 総業務時間と超過勤務時間
- 年次有給休暇の取得状況
- 介護職員の心理的負担等の評価(SRS-18調査)
- タイムスタディ調査の実施
事業年度ごとに厚生労働省にオンラインで実績報告を行います。
加算(I)算定のための追加要件(加算(II)から移行する場合)
加算(II)から移行する場合の加算(I)の算定のための追加要件として次のものがあります。
- 3ヶ月以上の取組継続後、成果の確認する
- 利用者満足度(WHO-5)を維持する
- 総業務時間と超過勤務時間を短縮する
- 年次有給休暇取得日数を維持または増加させる
⑥継続的な改善活動を行いその記録を残す
- 委員会での定期的な評価と改善を行う
- 生産性向上ガイドラインに基づいた継続的な業務改善を行う
- 定期的な実績報告と委員会の議事概要を提出する
これらの手順を着実に実施し、継続的に取り組むことで、生産性向上推進体制加算の算定が可能となります。
施設の状況に応じて、段階的に加算(II)から加算(I)へ移行することも検討できます。
伴走支援・研修・ファシリテーターをうまく使う
生産性向上のためのプロジェクトを初めて行う介護施設は多いものと思います。
そして、生産性向上ガイドラインはこのような介護施設にとってのプロジェクトの指針として良いガイドとなってくれます。
しかし、プロジェクト推進に慣れていない介護施設にとっては委員会やプロジェクトマネジメント、ツールの利用、ファシリテーションは難しいと考えられますし、実際、「うちではそんな余裕はない」という声をよく聞きます。
また、介護ICTやロボットなどの介護テクノロジーを購入しても、その利用が定着しないという施設が半数以上あるとされています。
そのため、スタッフ教育や伴走支援、ファシリテーションが不可欠とされおり、生産性向上ガイドラインでも伴走支援やファシリテーション、研修を外部業者に依頼することを勧めています。
また、このようなプロジェクトにおける教育や伴走支援に対しても補助金が適用できるようになってきておますし、補助金の適用要件として「第三者による業務改善支援又は研修・相談等による支援を受けること」という表記が入るようにもなってきています。
そのため、研修や伴走支援を前提にしてプロジェクトを開始し、補助金を申請するのは有効な方法でしょう。
当社は生産性向上のための伴走支援、介護テクノロジーの導入支援のための研修、セミナー、伴走支援(対面・オンライン)、ファシリテーション、さらには補助金申請サポートも行っておりますので、ご興味があればこちらからお問合せをいただければと思います。