介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 プロジェクト開始
目次
2024年度の介護報酬改定における生産性向上推進体制加算(I)(II)の新設や、令和7年度から処遇改善加算の要件としても記載がされることで注目されている「生産性向上ガイドライン」。
本記事では生産性向上ガイドラインについて、できるだけ優しく実用できるよう解説をしていきます。
生産性向上ガイドラインってなに?
介護施設で生産性向上に取り組む際、厚生労働省の生産性向上ガイドラインを活用することは非常に有効です。
しかし、ガイドラインを初めて読むと、その情報量の多さに圧倒され、どこから手をつけて良いか分からなくなることもあります。
本記事では、ガイドラインを効果的に活用するための具体的な方法と、介護職員やプロジェクトメンバー、経営者がこれを理解し、実践するためのアプローチを紹介します。
生産性向上ガイドラインの全体像
生産性向上ガイドラインは大きく4つの項目から成り立っています。まずは大まかに全体像をつかみましょう。
その後詳細な説明のページを読んでみましょう。
- 生産性を向上させるための意識の持ち方
- 改善活動のためのステップ
- 改善活動で使えるツール
- 打ち手別の事例紹介
介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 全体像(目次付き)
介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 まずは意識改革
介護現場の生産性向上ガイドライン|番外編 成功のための組織マネジメント
介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 プロジェクト開始
介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 課題の見える化
介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 改善方針を立てる
介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 改善活動で使えるツール
介護現場の生産性向上ガイドライン|使い方解説 打ち手別の事例紹介
(参考)
生産性向上推進体制加算 生産性向上のための委員会の開催方法と成功ポイント
【介護】生産性向上推進体制加算(I)(II)の算定のために行うことまとめ
プロジェクト開始にあたって
プロジェクトメンバーの選び方
まずはプロジェクトメンバーを選びプロジェクトを発足させましょう。
プロジェクトメンバーは次の点を考慮して選ぶのが良いでしょう。
そして、この中からリーダーを1名、副リーダーを1名選びましょう。
- 管理者など現場のマネジメント層や中核人材を中心に選定する
- 改善活動に前向きな職員を選ぶ
- 多様な視点を取り入れるため、異なる職種や経験年数の職員を含める
- ICTに詳しい職員を1名以上入れる
- 理想的な人数は5-7名程度
例えば、次のような構成が考えられます。
- 施設管理者×1名
- 介護職員×2名
- 看護師×1名
- リハビリ(または機能訓練員)×1名
- ICTに詳しい事務スタッフ×1名
(これらのメンバーは出来るだけ性別、年齢がばらつく方が良い)
プロジェクトメンバーの心掛け
プロジェクトメンバーが次のような心掛けを持つとプロジェクトが成功すると言われています。
- 現状に満足せず、常により良い方法を模索する姿勢を持つ。
- ネガティブな言葉は使わずに意識的にポジティブな言葉を発するようにする。
- チームワークを重視し、メンバー間の協力を大切にする。
- 失敗を恐れずに取り組む姿勢を持つ。
- 小さな成功を積み重ねることが、大きな成功への近道である。
- 判断に迷うことがあれば事業所のビジョンや方針と照らし合わせて考える。
- 利用者本位の視点を忘れない。
プロジェクトを成功に導くために経営層・管理層が行うべきこと
プロジェクトの成功のためには、プロジェクトメンバーだけでなく経営層や現場職員の協力が不可欠です。
とくに経営層はプロジェクトメンバーに対して心理的安全性(後述)を提供し、現場職員に対してはトップダウンで方針を伝える必要があります。
経営層は次のような心掛けを持ちプロジェクトメンバーを支援しましょう。
明確な方針を設定する
介護施設の多くは理念・ビジョンや行動指針等を掲げていると思います。
これ自体は非常に重要なことではありますが、概して理念やビジョンというのは抽象的なものになりがちです。
例えば、理念として
「寄り添った介護を提供する」
というものがあったとしましょう。
この言葉自体はとても素敵な言葉ですが、「寄り添った介護」というのは人によって捉え方が少しずつ異なるものです。
例えば、文字通り「とにかく介護職員が利用者のそばにできるだけ長い時間居るようにする」ことを考える職員が居るでしょう。
そばに居る時間は減るかもしれないが「利用者の望みを叶えてあげられるように様々な調整を行う」ことを考える職員もいるでしょう。
一方で、利用者の自立を促すために「必要最小限の支援のみを行う」ことが重要であると考える職員もいるかもしれません。
さらに思考を膨らませ、「テクノロジーを用いた支援で、利用者の最適なタイミングで家族や職員とコミュニケーションがとれるようにする」ことが寄り添った介護であるとす考える職員も居るでしょう。
このように抽象的な表現に対しては人によって捉え方が異なりますが、上記4点は全て正しいといえます。
そのため、理念やビジョンを補助するための「具体的に明記された方針」というのが無いと、同じ施設の中で考え方がバラバラになっていしまい、結果として理念やビジョンの実現から遠のいてしまいます。
よって、経営者は職員に対して次のように、理念をかみ砕き、具体的な方針まで落とし込み、これを明示する必要があります。
例えば次のように考えます。
当施設は「寄り添った介護を提供する」という理念で運営を行っています。
そのためには「利用者さん1人1人の個別のケアが必要」になります。
「利用者さん1人1人の個別のケアが必要」なので、利用者さんの暮らしをしっかりとデータとして捉えるために「ICTを導入して利用者さんの生活を見える化する」という方針を明記します。
さらに、「利用者さん1人1人の個別のケアが必要」なので、「介護職員に時間的・心理的ゆとりが必要」である。
さらに、「介護職員に時間的・心理的ゆとりが必要」なので、従来の業務を見直し「介護助手やICTに代行できる業務を積極的にタスクシフトする」という方針も明記することになるかもしれません。
このように、経営者はプロジェクトの成功のために、組織としての方針をしっかりと定義し明示することが重要です。
できればこの方針は文字にして明記し、定期的に発信してください。
紙に記して見えるところに掲示するとさらに有効です。
寄り添った介護を提供する
【行動指針・バリュー】
利用者さん1人1人の個別ケアを行う
職員に時間的・心理的ゆとりを作り出す
【方針】
ICTを用いてデータに基づいた利用者支援を行う
介護助手やICTに間接業務をタスクシフトする
キックオフ宣言を行う
プロジェクト開始時には、経営者は職員の前でキックオフ宣言を行ってください。
経営者がキックオフ宣言を行うことでプロジェクトの失敗例としてありがちな「プロジェクトチームが勝手に何かしている」「普段の業務が忙しくてプロジェクトチームに協力できない」という事象の発生を防ぐことが重要です。
キックオフ宣言では次のようなことを職員に伝えましょう。
- プロジェクトの目的と意義
- 施設が抱える課題の改善活動のために取り組む
- 全ての職員や利用者のために行う活動であるということ
- プロジェクト成功後の職場環境やサービスの質向上ビジョン(前項の理念や方針等)
- プロジェクトの具体的な目標や期間
- 達成したい具体的な数値目標や成果
- プロジェクトの開始日と終了予定日
- プロジェクトチームの紹介
- リーダーや主要メンバーの紹介
- チームメンバーは全職員や利用者のために代表して頑張ってくれる
- 全職員への協力要請
- 全員参加の重要性を強調
- 一人ひとりの意見や提案を歓迎する姿勢
- 経営層のコミットメント
- プロジェクトへの全面的なサポートを表明
- 必要なリソースを提供する変化
例えば次のようにキックオフ宣言を行います。
これは当施設理念にもある「寄り添った介護を提供する」ためのものです。
そのためには「利用者さん1人1人の個別ケアを行う」「職員に時間的・心理的ゆとりを作り出す」ことが必要です。
そのために「ICTを用いて利用者の生活に合ったケアを提供する」「介護助手やICTに間接業務をタスクシフトする」という方針を施設全体で掲げてプロジェクトを進めていきます。
このプロジェクトの中心となって推進するメンバーを紹介します。
このプロジェクトチームは全職員、全利用者のために行うものです。
プロジェクトチームは職員職員の皆さん職員の皆さんを代表して頑張ってくれる人たちです。
全職員はプロジェクトチームへの協力をお願いします。
プロジェクトチームを核として、全職員でこのプロジェクトを成功させ、職員の業務負担を30%軽減し、利用者満足度を20%向上させることを目指しましょう!
皆さんの積極的な参加と提案をお願いします。
心理的安全性を提供する
心理的安全性とは、チームや組織内で自分の意見や考えを自由に表現しても、否定されたり非難されたりしないという信念や雰囲気のことを指します。
メンバーが互いを尊重し、失敗を恐れずにリスクを取ることができ、新しいアイデアを提案しやすい環境を作り出します。
これにより、オープンなコミュニケーションが促進され、創造性や生産性が向上し、組織全体のパフォーマンスが高まります。
心理的安全性の高い職場では、学習や成長の機会が増え、メンバーの満足度や定着率も向上する傾向があります。
心理的安全性についてと考え方はGoogleの研究結果により体系的に発表されてから、多くの組織で認められることになり、多くの企業や組織で取り入れられています。
心理的安全性を提供するためには次のようなことを行うのが重要とされています。
- オープンなコミュニケーションを奨励する
- 定期的なミーティングで全員が意見を述べる機会を設ける
- 「間違った意見はない」という姿勢を明確に示す
- 失敗を学びの機会として扱う
- 失敗した際に責めるのではなく、そこから学べることを一緒に考える
- 失敗事例を共有し、改善策を全員で検討する場を設ける
- アイデアを積極的に評価する
- 新しいアイデアに対して「面白い」「ユニークだ」など肯定的な言葉をかける
- 実現可能性に関わらず、まずはアイデアを受け入れる姿勢を示す
- 多様性を尊重する
- 経験年数や職種に関わらず、全員の意見を平等に扱う
- 少数意見も尊重し、議論の俎上に載せる
- リーダーが率先して脆弱性を見せる
- 自身の失敗談や不安を共有する
- 分からないことがあれば素直に「分からない」と言える雰囲気を作る
- 積極的に傾聴する
- メンバーの発言を遮らず、最後まで聞く
- 相手の意見を要約して確認し、理解を深める
- 匿名でのフィードバック機会を設ける
- 匿名のアンケートやご意見箱を設置する
- 匿名で出された意見も真摯に受け止め、対応する
- チーム内での信頼関係を構築する
- チームビルディング活動を定期的に行う
- メンバー同士が互いの強みを知る機会を設ける
- 意思決定プロセスを透明化する
- 決定事項の背景や理由を丁寧に説明する
- 可能な限り、意思決定プロセスにメンバーを巻き込む
- 心理的安全性の重要性を定期的に確認する
- プロジェクトの進捗確認時に、心理的安全性についても振り返る時間を設ける
- メンバーからのフィードバックを基に、改善を続ける
これらの行動を継続的に実践することで、職員やプロジェクトメンバーが安心して意見を述べ、新しいアイデアを提案できる環境を作り出すことができ、「業務改善を行うために自主的に動く文化」が醸成されていきます。
外部の研修会やコンサルティングを受ける
改善活動のためのプロジェクトを推進していくにあたり、自施設内のリソースや実力では取り組むことが難しいことがあります。
そのために、外部の業者に研修やコンサルティング、伴走支援を検討するのも一つの選択肢です。
とくに、補助金の都合や、法人の号令によりICT化のプロジェクトを進めなければならない状況などでは、施設内での準備が整わないため、外部のコンサルタント等に頼った方がプロジェクトの成功率が高まります。
また、このようなプロジェクトにおける教育や伴走支援に対しても補助金が適用できるようになっていますので、これを見越して補助金を申請するのは有効な方法です。
外部コンサルタントによるプロジェクト支援
介護施設が外部のコンサルタントに依頼することで効果的な支援を受けられる項目には、以下のようなものがあります。
- 現状分析と課題抽出
- 客観的な視点での業務フローの分析
- 職員へのヒアリングやアンケート実施と分析
- 施設の強みと弱みの洗い出し
- 改善計画の策定支援
- 具体的な改善目標の設定
- 実行可能な改善施策の提案
- 中長期的な改善ロードマップの作成
- ICT・介護ロボット導入支援
- 施設に適したICTツールや介護ロボットの選定
- 導入計画の策定と実施支援
- 職員向け操作研修の実施
- 業務プロセス改善支援
- 業務の標準化・マニュアル作成支援
- 効率的な業務フローの設計
- 多職種連携の仕組み構築
- 人材育成・教育研修
- リーダーシップ研修の実施
- 接遇・コミュニケーション研修
- 介護技術向上のための実践的研修
- データ分析と活用支援
- 介護記録等のデータ分析方法の指導
- 科学的介護の実践に向けたアドバイス
- KPIの設定と進捗管理の仕組み構築
- 組織風土改革支援
- 職員の意識改革を促す研修の実施
- チームビルディング支援
- 職場環境改善のためのワークショップ開催
- 継続的な改善活動の仕組み構築
- PDCAサイクルの導入と運用支援
- 改善活動を推進する内部人材の育成
- 定期的なフォローアップと進捗確認
- 他施設の成功事例共有
- 類似施設での改善事例の紹介
- ベストプラクティスの共有と適用支援
- 補助金・助成金申請支援
- 活用可能な補助金・助成金の情報提供
- 申請書類作成のサポート
これらの支援を受けることで、施設内だけでは気づきにくい課題の発見や、専門的な知識・経験に基づいた効果的な改善策の実施が可能になります。
また、外部の視点を取り入れることで、職員の意識改革や新たな取り組みへのモチベーション向上にもつながります。
また、介護ICTやロボットなどの介護テクノロジーを購入しても、その利用が定着しないという施設が半数以上あるとされているためスタッフ教育や伴走支援は不可欠とされています。
当社は生産性向上のための伴走支援、介護テクノロジーの導入支援のための研修、セミナー、伴走支援、さらには補助金申請サポートも行っておりますので、ご興味があればこちらからお問合せをいただければと思います。
DX医療介護ナビ 編集部
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